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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)25号 判決 1964年6月30日

上告人

斎藤惣吉

右訴訟代理人弁護士

秋田経蔵

被上告人

木野崎俊

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人秋田経蔵の上告理由第一乃至第三点について。

原判決(引用の第一審判決)は、藤森勝治が賃借した本件土地に建築された勝治名義の本件建物(内部関係では勝治と被上告人の共有)に、被上告人と勝治は事実上の夫婦として同棲し、協働して鮨屋を経営していたが、勝治死亡後、被上告人は勝治の相続人らから建物とともに借地権の譲渡を受け、引きつづき本件土地を使用し、本件建物で鮨屋営業を継続しており、賃貸人である上告人も、被上告人が本件建物に勝治と同棲して事実上の夫婦として生活していたことを了知していた旨の事実を確定の上、このような場合は、法律上借地権の譲渡があつたにせよ、事実上は従来の借地関係の継続であつて、右借地権の譲渡をもつて土地賃貸人との間の信頼関係を破壊するものとはいえないのであるから、上告人は、右譲渡を承諾しないことを理由として、本件借地契約を解除することは許されず、従つてまた譲受人である被上告人は、上告人の承諾がなくても、これがあつたと同様に、借地権の譲受を上告人に対抗でき、被上告人の本件土地の占有を不法占拠とすることはできない、としているのである。右の原審判断は、基礎としている事実認定をも含めて、これを肯認することができる。すなわち、右認定事実のもとでは、本件借地権譲渡は、これについて賃貸人である上告人の承諾が得られなかつたにせよ、従来の判例にいわゆる「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合」に当るものと解すべく、従つて上告人は民法六一二条二項による賃貸借の解除をすることができないものであり、また、このような場合は、上告人は、借地権譲受人である被上告人に対し、その譲受について承諾のないことを主張することが許されず、その結果として被上告人は、上告人の承諾があつたと同様に、借地権の譲受をもつて上告人に対抗できるものと解するのが相当であるからである。されば原判決に各所論の違法があるものとは認められないのであつて、論旨はすべて採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官横田正俊 裁判官柏原語六 田中二郎)

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